米澤裕美さん
IT企業に19年間勤め、営業部のインサイドセールスや業務改善などを担当し、40〜50人の従業員をまとめる統括リーダーも務めました。長年企業で働く中で、多様な働き方やキャリアの重要性を痛感していたため、自分自身の働き方を再設計し、働く人たちのサポートにも携わりたいと考え、社労士の資格を取得して退職、社労士法人勤務を経て今に至ります。
資格を取得した時点では起業までは考えていませんでしたが、往復3時間以上という通勤時間をどうにかしたいという思いはありました。子供が小学生になったばかりというタイミングでのキャリアチェンジには不安もありましたが、外の世界で未来の可能性に賭けてみたいとチャレンジしました。長い通勤時間を有効活用し、人生で一番勉強したというくらい頑張ったと思います。
現在は、社会保険労務士(社労士)として企業の人事に関するコンサルティング、労務管理のサポートなどを行っています。社労士の仕事を通して多くの経営者が採用や人材の定着に課題を抱えていることを目の当たりにし、「働き方」を通じて企業がブランディング*1を図る「働き方ブランドコンサルタント」としての活動も始めました。アウターブランディング(外部への発信)とインナーブランディング(社内への発信)の両方を視野に、働き方を表現する動画やウェブサイトの作成などのサポートを行い、相談いただく企業の労働環境のさらなる向上を目指して活動しています。自社の良さを社内外に発信することが、従業員のやりがい向上、つまりエンゲージメントの向上につながると考えています。
*1:自社の商品やサービス、自社そのものの独自性を認識してもらい、他者との差別化を図る取組
私自身は2度の育業を経験しましたが、勤続も長くそれなりに会社に貢献できていたこともあり、かなり周囲の協力体制が整った中で育業できたと思います。ただ、周囲を見ると「妊娠中・子育て中なのだから、当たり前」という周囲のフォローありきの態度によって、他の従業員との関係がギクシャクしてしまうケースもあり、職場で周りの理解を得ながら育業することの大変さを目の当たりにしました。
実は、こうした人間関係の課題は、当時よりも今の方が増えているように思います。育業は正当な権利ですが、周囲の理解と協力なしには成り立たないのが現実ですから、そこには「お互い様」という気持ちが大切です。今は多くの企業が働きやすい職場環境づくりに取り組んでいるため、育業しやすさという面では以前よりも改善されていると思いますが、人手の余裕がなく、限られた人数で回していかなければならないという職場が少なくありません。その中で従業員が権利を行使できるようにするためには、権利を行使する側も周りに感謝の気持ちや、いつか同僚が介護や病気を抱えたときには恩返しをする気持ちを持って、「お互い様」の気持ちが生まれる雰囲気づくりを自ら心がけてほしいと思います。
経営者を含め従業員同士お互いの理解と信頼関係が欠かせません。社内イベントや研修を通じて、お互いを知る機会を増やすことが効果的です。従業員は、社内で理解されて周囲の人からのサポートを受けると、自分の仕事に価値や意義を見出しやすくなりますし、他の人から信頼されていると感じると、自信を持って自主的かつ創造的に仕事に取り組むことができます。
また、自分が働く職場の長所を見つけて社内で共有し、さらに内外にアピールすることも、従業員のエンゲージメント向上に役立つと思います。これについて私が関わった例を挙げましょう。ある中小企業が「テレワーク推進賞*2」を受賞したのですが、経営者がおっしゃるには「目的はテレワークそのものではなく、チャレンジすることだった」と。テレワーク導入のためにはさまざまな業務を変える必要が生じ、変えることによるデメリットもあるかも知れないけれど、それでもチャレンジを進め続けることを決断されたのです。
こうした経営者の姿勢が社内の良い雰囲気をつくっていったのでしょう、この受賞について従業員の皆さんも大変喜び、SNSで喜びを発信もされていらっしゃいます。このように、自分の職場に対するポジティブな気持ちを広く発信することは企業のブランディングになりますし、従業員のエンゲージメントにもつながっていくと考えられます。
ですから 経営者の皆さんは、例えば「職場ではみんなが褒め合う」といった小さなことでもいいので、会社の「いいところ」をもっとアピールしてはいかがでしょう。会社の課題に目が向きがちですが、会社のいいところ、自慢できるところを見つけていただきたいと思います。
*2:一般社団法人日本テレワーク協会が主催する、国内でもっとも歴史のあるテレワークに関する表彰事業