先人に聞く。
魅力ある職場づくりとは――
INTERVIEW04

働く女性のコミュニティ キャリア・マム 堤香苗さんに聞く、多様な働き方を実現する方法とは?

堤香苗さん

「魅力ある職場づくり推進奨励金事業」では、従業員のエンゲージメント向上に向けた職場環境づくりに積極的に取り組む企業をサポートしています。11万人のコミュニティ会員を持ち、20年以上前からテレワークなど多様な働き方を実践してきた株式会社キャリア・マム 代表取締役の堤香苗さんにお話を伺いました。
PROFILE堤香苗/株式会社キャリア・マム 代表取締役
早稲田大学在学中よりフリーアナウンサーとしてTV・ラジオで活躍。結婚・出産後、1995年に育児サークルPAOを設立。有限会社アクセルエンターテイメンツの一事業部を経て、2000年、事業部が独立する形で株式会社キャリア・マムを設立。仕事と家庭を大切に自分らしく働きたい女性たちのためのコミュニティーとしてスタート。2023年現在、会員数11万人、社員約50人(パート含む)。

創業時から多様な働き方に挑戦

株式会社キャリア・マムは、会員数11万人のコミュニティで、そのほとんどが主婦ということですが、どのような企業なのかご紹介ください。

キャリア・マムでは、自宅や自宅周辺で能力を活かして働ける在宅ワークを中心に、企業等から受託した業務を分割して、チームを作って仕事を行っています。2000年に株式会社化しましたが、IT業務に関する在宅ワーカーへのアウトソーシング事業をはじめ、官公庁と連携した就業・企業支援、女性のキャリア支援が主な柱となっています。登録会員は現在11万人となっており、クライアント企業は約150社です。
キャリア・マムの従業員は約50人、うち正社員は約20人で、他にパートタイマーの方もいらっしゃいます。半数くらいは在宅のためオフィスに常駐するのは20人弱です。

メインである在宅ワーカーへのアウトソーシング事業は、フルタイムの外勤が難しい方が、在宅でIT技術を活用して、いつでもどこでも誰でも、そして自分の望む量を自分の好きなだけ、自分の得意な部分を組み合わせて働けるというものです。例えば、1人分の仕事を1人でこなすのが難しくても、10人で10分の1ずつ、1人分の得意な仕事を分担すればいいのです。
この事業で今一番の核となっているのが「アノテーション」という分野。今話題のChatGPTなどの生成AI(テキストや画像、音楽などのコンテンツをつくる人工知能)が判断をするために、最初に人間がデータを整理し、テキストや画像にタグ付けをしてAIに意味を教える「アノテーション」という作業を大手企業や大学、研究所などと協力して行っています。
それから、在宅で働く人以外に、地域で働ける場所をつくる手伝いも行っています。そのひとつが、「コワーキングCoCoプレイス」です。保育室も併設しており、サテライトオフィスとして利用できるほか、起業の相談も受け付けるなど、多様な働き方に対応できるように場所と機会を提供しています。

スタートが子育て中の女性を集めたサークルだったので、子育て中の方はもちろんですが、介護をしている方や病気の治療中の方、あるいは年配の方、こういう方たちが自分の体調に合わせて自分のベストな環境で仕事できるようにしようというコミュニティですから、まさに多様な働き方を体現していると思います。

キャリア・マムは、創業された2000年当時からテレワークなど働きやすい環境づくりに取り組まれてこられました。多様な働き方ができる環境づくりで大切なことはどんなことでしょうか。

私は「働くことは一挙五得だ」「働くことは人生で一番楽しいコンテンツだ」と思っています。働いていると人に感謝されるし、それによって収入も得られ、チームで働くことで成長もできる。だから、みんな何故もっと仕事を楽しまないんだろうと思っています。多くの人が働いていても楽しくないのは「働かされている」からだと思うんです。制度に縛られ、働かされていると自由度がない。
例えば、就業規則で始業が8時30分で、保育園に送っていくと15分遅れてしまうような場合、こういう人がフレックスタイム制のない会社に就職してしまうと、正社員になれなくて、非正規になってしまう。正社員の能力があり、フレックスタイム制があれば活躍できるのに本当にもったいない。

経営者は、労働時間の制度や多様な働き方の仕組みを作ることも大事ですが、それ以前に従業員とよく話し合って、コミュニケーションを取り、従業員が働きやすい環境を作ることが大事です。例えば、フレックスタイム制を導入して多様な働き方を認めると奨励金が出るからというので、経営者がセミナーに参加して就業規則を書き換えても、お金がもらえるからというだけで作ったような実効性のない仕組みでは従業員が誰も利用してくれないでしょう。あるいは、一部の人だけが利用すると、変に詮索されたりして、結局自由に使うことができなくなってしまいます。
従業員とよく話し合うために、短時間でも1対1で話し合う時間を作ることはとても大切ですし、普段から従業員の声を聞くことで、自然と従業員の声が上がってくるようになり、「みんなはどれがいい?」と聞ける環境になります。従業員がベストな選択肢を選べることが必要ですから、働き方改革や新しい制度の導入など大上段に構える以前に、普段からそういう環境を作っておくことが何よりも大切だと思います。

企業に成長をもたらす「魅力ある職場づくり」

多様な働き方ができる職場、つまり「魅力ある職場」について、経営者としてどのようにお考えですか。

経営者は、どうすれば社員が働きやすく、かつ働きがいを感じて働けるかを考えることが大事です。私は「働きがい」は成長の度合いだと思うんです。「働きやすさ」だけを強調すると会社が成長しなくなってしまう。「働きやすさ」と「働きがい」のバランスを取りながら、会社が今どういう状態なのかを皆にオープンにして、こういう制度を導入したら会社がこう変わった、利益率がこう変わった、残業時間はこうなったということを経営者がみんなに説明していけば、社員の中にも本気で変えていこうというメンバーが出てくると私は思います。そういう会社の社員は、働かされているのではなくて、自分から働きたいと思うはずです。

東京しごと財団が行っている「魅力ある職場づくり推進奨励金」をご利用されているとのことですが、どのように取り組まれていますか。

令和4年度の「魅力ある職場づくり推進奨励金」の支給条件の中からワーケーション制度、社外副業・兼業制度、社内メンター制度、従業員表彰制度・報奨金制度の4つを選択して申し込み、現在取り組んでいます。 キャリア・マムの場合は、総務部長に助成金や奨励金に関することを一任しているので、彼女が「申請したい」というので、私は「わかりました」と承認しました。それで「申請が通りました」と嬉しそうにいうので、「よかったね」と。この4つの取り組みはもともと社員から取り入れてほしいという要望のあったものなので、ちょうどよかったのです。
ワーケーション制度は、ほとんどの社員がテレワーク申請で代替できてしまうので、なかなか利用に結びついていないのですが、それ以外は活用できていると思います。例えば、社外副業・兼業制度については、他社で働いている人がうちで働きたいという場合に、「副業・兼業制度があるから大丈夫ですよ」という具合に中途採用での利用が増えていますね。

最後に魅力ある職場づくりに取り組もうと思っている企業に向けてメッセージをお願いします。

私は、魅力ある職場づくりというのは、従業員のためだけではなく、会社の成長にもつながると思うんです。特に中小企業であれば、一人でも素晴らしい人材が入ることで、経営もすぐに飛躍します。例えば、一日8時間の労働で、嫌々働かれている人のパフォーマンスが4~5割だとすると、喜んで働いている人のパフォーマンスは8~9割になるし、かつそういう人は日々成長していくので、汗をかいた分だけその会社は伸びていくと思います。
さらに「魅力ある職場づくり推進奨励金」を活用して、職場環境を考えている会社だということを外に発信していくことで、就職活動をしている人たちにもアピールでき、差別化されて選ばれる会社になるでしょう。従業員に選ばれない会社が顧客に選ばれるわけがないと、私は思っています。

働く環境を変えるのは難しいことですが、やれることから少しずつでも歩みを止めないでやっていくことが大事だと思います。変わらない会社は死んでしまうと思うので、商品やサービスだけを変革するのではなく、それを作る従業員にも目線を向けることが重要です。そうすれば、従業員が自ずと成長していくし、従業員も会社のためにいろいろなことを考えてくれるようになりますから、結果的には経営も楽になると思います。

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