先人に聞く。
魅力ある職場づくりとは――
INTERVIEW01

コミュニケーション術のプロフェッショナル・牛窪万里子さんに聞く、社内コミュニケーションを円滑にするコツ

牛窪万里子さん

「魅力ある職場づくり推進奨励金事業」では、従業員のエンゲージメント向上に向けた職場環境づくりに積極的に取り組む企業をサポートします。従業員が働きやすい環境を整えるには、どのような社内コミュニケーションが必要なのでしょうか。話し方やコミュニケーション術に精通する牛窪万里子さんに話を伺いました。
PROFILE牛窪万里子/株式会社メリディアンプロモーション代表取締役
大手飲料メーカーに就職したのち、フリーアナウンサーに転身。NHKキャスターとして「おはよう日本」「首都圏ネットワーク」等に出演し、これまでのインタビュー歴は著名人を含め、3000人以上にのぼる。現在はフリーアナウンサー事務所の代表取締役を務め、放送経験を生かしたコミュニケーション方法を指導している。著書には『なぜか好かれる人の「言葉」と「表現」の選び方』『難しい相手もなぜか本音を話し始めるたった2つの法則 入門・油田掘メソッド』など。

継続的なヒアリングで、従業員の価値観を拾い上げる

社内でコミュニケーションを図る際に大切なことは何ですか。また、従業員にとって魅力ある職場づくりを構築していくには、具体的にどういった取り組みを行うといいのでしょうか。

円滑なコミュニケーションを図るためには、まず信頼関係を築くことが大切です。コロナ禍で物理的に距離が離れて、コミュニケーションに不安感を持っている人が多いと思いますが、不安というのは心の距離があるために生じるもの。従業員にアンケートを取ったり、個別でヒアリングしたりする中で、「現在どういう状況なのか」「どんな悩みを抱えているのか」「何がうまくいっていないのか」など、課題を見つけ出す時間を作っていきましょう。

例えば、オンラインでの朝礼時間を活用して、上司からの一方通行の説明だけでなく、一人ひとりにヒアリングする時間を設け、現在の状況を報告し合う場を作っている企業があります。このように、せめて月に1回、もっと信頼関係を構築したいのであれば週に1回は、そういった時間を設けてください。部下に「この上司なら、悩みを聞いてくれそう」という意識を持たせる努力が大切です。
また、毎日10分間だけでも業務と関係ない雑談タイムを取れるとなお良いです。雑談を通して、相手の人間性が理解できることもあります。急いでいるときに、ついついそっけない言葉で伝えてしまい、誤解が生じる事例がよくあると思いますが、普段から雑談を含めたコミュニケーションが取れていれば、相手の会話の癖を知ることができるので、「この人はこういう言い方をすることがあるよね」と相手もすんなりと受け入れられるのです。

魅力ある職場づくりの第一歩は、従業員が働きやすいと思える環境を整えることです。例えば、自分のペースで仕事ができるよう、フリーアドレス制を導入するのも良いと思います。働く場所の選択肢を広げるロケーションフリーやワーケーションを取り入れたことで、社員のモチベーションが上がり、エンゲージメントスコアが大幅にアップしたという事例があります。
職場の環境づくりも、経営層が一方通行で決めるのではなく、どういう環境が自分たちにとって働きやすいのか、お互いの価値観や情報を集めながらまとめていく方法で作っていくのがおすすめ。できれば下から上に持ち上げていくボトムアップがベストだと思います。どこまでそれを実現できるかは会社の規模や予算によっても変わってきますが、できる範囲の中で従業員の意見も反映できるといいですね。そのためには、やはり普段から社内でコミュニケーションを深めておくことが重要です。

働きやすい環境を物理的に整備し、コミュニケーションが取りやすい仕組みづくりをする。この2軸でアプローチしていくことで、エンゲージメントは向上していくのではないでしょうか。

愛情を持って接し、「何が伝わったか」までフォローする

「社内でコミュニケーションがうまくいっていない」と相談を受けたとき、牛窪さんはどういったアドバイスをされていますか。

まずは、うまくいっていない原因を追求します。それから、人によって価値観が異なるのは前提ですが、年齢によっても言葉の受け取り方は違います。世代間コミュニケーションがうまくいかないという声をよく聞きますが、それは社会背景や生まれたときの環境、価値観が全く異なるので、当たり前のこと。それをいかに擦り合わせていくかが重要です。
一番大事なのは「何を伝えたか」よりも、「何が伝わったか」。自分が言ったことに対して、相手はそれをどう理解しているのかまでフォローする必要があると思います。理解度は年齢差、キャリアによっても変わってくるので、一人ひとりがどこまで理解できているか、把握しようとする意識が求められます。
どうしても人は自分の固定概念があって、「自分が理解しているのだから、相手も分かるだろう」と思い込んでいるところがあります。しかし、言葉は省略化されて使われていることのほうが多いのです。例えば、「人生」という言葉一つでも、人によって全く捉え方が違います。「人生」=「家族」「お金」「仕事」だと考える人もいれば、「楽しい」「ゲーム」「挑戦」など前向きな言葉を出す人や、「辛い」「苦しい」「しんどい」などネガティブな言葉を連想する人もいるでしょう。一つの言葉の中にさまざまな概念が集約され、私たちは総称として言葉を使っています。何かを伝えるときは、それが相手にどう受け止められたのかまで細かくフォローしてみてください。

また、相手によって伝え方を変えるのも効果的。例えば、部下に企画を実行してもらいたいとき、相手が他人の評価を重視するタイプであれば「この企画は評判が良いからお願いしたい」と第三者の意見を巻き込んで伝えてみたり、自分の信念を重視するタイプであれば「この企画はあなたじゃないとダメだから」と相手を頼りにしているスタンスで伝えてみたりすることで、伝わり方はまるで変わります。
そして何よりも大事なのは、従業員に対して愛情を持って接すること。怒りや焦りといった負の感情が出てしまうと、パワハラに繋がりかねませんので、部下を育てようという愛情を持って言葉を伝えていけるよう心がけてみましょう。

最先端で柔軟性のある企業が今後ますます注目される

牛窪さんご自身の経験について伺います。仕事上のコミュニケーションでうまくいかなかったこと、起業されてから現在に至るまでに苦労したこと、それをどうやって乗り越えたかなどを教えてください。

コミュニケーションに関する失敗といえば、会社に所属しているメンバーに仕事を割り振るとき、私がメールで伝えたことが相手にきちんと伝わっていなかったために行き違いが発生して現場が混乱してしまったことがあります。それ以来、メールだけでなく電話も活用するようにしています。もちろんメールも送りますが、メールに基づいた内容を電話で確認する。時間はかかりますが、大事な話は相手の声を聞くのも大切です。

私の会社は業務委託契約で人材を集めていて、単発の業務も多く受けています。そのため、仕事と人材のマッチングが非常に重要です。起業したばかりの頃は所属人数も少なく、マッチングミスが起こってしまい、残念な結果を報告されることもたびたびありました。そうすると、同じクライアントからは2度と仕事が来ないという厳しい世界なので、いかにそれを防いでいくかが課題でしたね。
以前マッチングミスがあったメンバーに再び仕事を頼む場合は、その人に前回の問題点をしっかり伝えて、どう改善していくかを話し合うようにしました。それによってその人が成長していった例もありますが、どうしてもできないという場合もあるので、どの仕事がどの人材にマッチするかを見極めることもリーダーとして求められる技術なのではないでしょうか。一人ひとりの能力を把握することも大事ですが、メンバーの能力をアップさせることも上司にとって大切な仕事です。

最後に、「魅力ある職場づくり推進奨励金事業」の取り組みについてのご意見をお聞かせください。

会社の生産性を上げたり、業務改善に繋がったりするので、こういった制度は積極的に取り入れるべきだと思っています。これからは特にZ世代の人材を採用する機会も増えていくと思うので、働きやすい環境はもちろん、IT化も重要な要素。常に新しい情報を受け入れようとしている、最先端で柔軟性のある企業が注目され、良い人材も集まってくるのではないでしょうか。

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